cozybase
【短編小説】マイホームの夢_私と同じにならないで!
更新日:2021年12月27日
短編小説「マイホームの夢」
~ 私と同じにならないで! ~

私は飯田沙耶。同い年の夫の隆二と、5才になる娘の陽菜と暮らしている37才の専業主婦です。憧れのマイホームを建てるため、仕事が忙しい夫の分も日夜、情報収集に勤しんでいます。
先日娘と二人で住宅展示場に見学に行きました。
「すごいねママ。大きい家がたくさんある」
「そうだね。ちょっと高そうだけど」
住宅展示場にはとても立派な家が立ち並び、マイホームの夢がふくらみます。
展示場にある大きな家のお値段を聞くと、さすがに手が届きませんでした。
それでも自分たちが住むとどうなるだろう、そうやって想像を巡らせていました。
「陽菜はどのお家が好き?」
「私、あの壁がピンクのお家がいいな」
でも、子どもの目はこっそりと値段を中心に見ています。いくつかの住宅メーカーのうち、ベランダから金額の垂れ幕を下げている、ひと際安い住宅がありました。あまりにも安さを売りにしているので誰も近寄りません。ちょっと恥ずかしいですよね。夫がいたら多分見に行かないだろうと思い、娘とその住宅を見学しました。
私もそれなりに勉強してきたので、入ってすぐに塩化ビニールの壁紙が気になりました。そして床にも一見、自然の木に見える床材がピカピカに光っています。
私はそこにいた営業の方に、聞いてみました。
「このビニールクロスの壁紙を止めることはできませんか」
すると急に怖い顔をして言い返してきたのです。
「ビニールクロスは今時どこの住宅でも使われてますよ。床だってこちらの方が耐久性もいいですよ。これが今の普通の家ですよ。みなさんこのような家に住んでいます。」
床についても、古くなった実家の床を歩くと沈む箇所があるので続けて聞いてみた。
「強力なボンドで固めた合板材と呼ばれる強い板の上にフローリング材を強力なボンドで止めています。今はどの家もそうやって作られています。当社は施工もしっかりしていますから大丈夫です。」
そう言ってキッチンにも案内していただきました。黒いレンガ調プリントの壁紙に赤い色の扉のシステムキッチンで、現実離れしたかっこいいデザインにされていました。
「ご覧のように色もたくさん選べるので、おしゃれにこだわりを持って作り上げる施主様の、お好みのデザインに作り上げることができるんですよ。このビニールクロスの壁紙が気に入らなかったら、住んだ後からでも剥がして新しいデザインに直せますし」
でも、そうすると家中を覆っている壁紙のボンドから出る新築のニオイがしてくる。
娘が生まれて新築の賃貸に引っ越してから、時々頭が痛くなることがあったことを思い出した。新築の家に住んで子供のアトピーが酷くなったというママ友の話し。その話しに共感したことが___静かに頭に浮かんだ。
ビニールクロスの壁紙は生活していくうちに黄色くなっていく。なるべくそういう暮らしはしたくありません。それで、自然派とか、自然素材の家で探していたけど、リビンク以外はビニールクロスだったり、フローリングの床とか扉など見た目が自然のもの見せているだけのように感じました。娘は、秘密基地のようなキッチンに、はしゃいでいましたが、私には自分がそこで家族に料理を作る姿が想像できなかったのです。夫に「ここはない」と報告するつもりでした。ところがその日の事件は帰り道での出来事でした。
新しく開店した100円ショップを見かけて、店内を見て回るだけのつもりで入りました。
私は店内に入った瞬間に違和感を抱きました。そのまま店内を進むと気分の悪さを感じ始め、そのうち頭痛とともに呼吸が苦しくなってきました。慌てて娘を抱きあげて外に飛び出したんですが、店の外に出ると娘の顔は真っ赤に腫れあがっていました。
「ママ、痛い」
娘はゼーゼーと息を切らしながら私を呼んでいました。
その時は初めて体験したことで、娘が死んでしまうかもしれないと思い、パニックになってしまいました。幸い二人とも大事には至りませんでしたが、とても怖い思いをしました。