子どもの不調と住宅の化学物質|9月問題

夏休みが終わると、学校へ行けなくなる子がいます

9月。
新学期が始まったのに、子どもが学校へ行かなくなる。 朝、起きてこない。起きてもだるそうにしている。 やる気が出ない。何を聞いても「しんどい」としか言わない。
心当たりのある方は、少なくないと思います。
多くの場合、原因は生活リズムの乱れや、環境の変化への戸惑いです。 夏休み明けにそうなる子は昔からいましたし、それは自然なことです。
ただ、その中に、ごくわずかですが、まったく別の原因が混じっていることがあります。
家の中の空気です。
この記事は、家を売るための記事ではありません。 私が松山で九年間この仕事をしてきて、実際に見てきたことをお伝えするための記事です。
今お住まいの家がどこで建てられたものであっても、今日から確かめられることを最後にまとめました。
なぜ「夏の終わり」なのか
住宅の建材や家具に使われている接着剤・塗料・防腐剤などから、揮発性有機化合物(VOC)と呼ばれる化学物質が空気中に出てきます。
このVOCには、はっきりした性質があります。
温度が上がると、放出量が増えます。
夏、屋根や壁が日射で熱せられ、室内の温度が上がる。 すると建材から出てくる化学物質の量が、冬とは比較にならないほど増えます。
しかも、話はそこで終わりません。
日中に建物が蓄えた熱は、日が落ちてもすぐには抜けません。 夜になっても壁や天井は熱を持ったままで、化学物質は放出され続けます。
つまり、夏から初秋にかけては、一年でもっとも室内の化学物質濃度が高くなりやすい時期です。
そして子どもは、大人より体重あたりの呼吸量が多い。床に近いところで過ごす時間も長い。 同じ部屋にいても、大人と子どもでは受ける影響が違います。
「24時間換気」が、止まっている家
2003年、建築基準法が改正され、住宅への24時間換気設備の設置が義務づけられました。
シックハウスによる健康被害が社会問題になり、法律が動いた結果です。
ところが実際にお宅を拝見すると、その24時間換気が機能していない家が、驚くほど多くあります。
よくある三つのパターンです。
1. 給気口が閉じられている
壁についた丸い給気口。「冬に寒い風が入ってくる」「虫が入る」という理由で閉められていることがあります。給気口が閉じていると、排気ファンが回っていても空気は入ってきません。
2. 排気ファンのスイッチが切られている
洗面所やトイレの天井についた常時運転のファン。「冬に寒い冷気が入って気になる」「電気代がもったいない」と切られていることがあります。多くの場合、切ってはいけないスイッチです。
3. レンジフードを24時間換気の一部として計算していた家で、止めている
設計上、キッチンのレンジフードを常時弱運転させることで必要換気量を満たしている家があります。この場合、レンジフードを止めると、その家は法定の換気量に届きません。
いずれも、住んでいる方に悪気はありません。 そう設計されていることが重要なのか、知らなかっただけです。
引き渡しのときに一度説明されたかもしれない。でも、それを何年も覚えている方はほとんどいません。
換気は「付ければいい」というほど単純ではない
もう一つ、あまり知られていないことがあります。
換気の専門書には、給気口と排気口を対角線上に配置する、と書かれています。 部屋の端から端へ空気が流れるようにするためです。
ただ、実際の空気の流れは、そんなにきれいではありません。
対角線の上を空気が通っていくと、その線から外れたコーナーは、空気がほとんど動きません。 淀んだまま、そこに化学物質がたまる。いわば「ホットスポット」ができます。
そして厄介なのは、そのホットスポットが、子ども部屋の勉強机の位置だったり、寝ている間も呼吸をしているベッドの位置だったりすることです。
換気扇が回っていて、法律も守っている。数値上の換気回数も足りている。 それでも、その一角の空気だけは動いていない。
「換気設備がある」ことと、「その子が吸っている空気が入れ替わっている」ことは、別の話です。
芳香剤・消臭剤という「気化装置」
化学物質を多く含む家には、独特の匂いがあります。 焦げたような、鼻の奥にツンとくるような匂いです。
その匂いが気になると、人はどうするか。
芳香剤を置きます。消臭剤を置きます。
コンセントに挿すタイプ。置くタイプ。スプレータイプ。 柔軟剤の香りを強くする。
気持ちはよくわかります。匂いが消えれば、問題は解決したように感じます。
でも、実際に起きているのは逆です。
芳香剤も消臭剤も、成分を空気中に拡散させる仕組みです。 つまり、化学物質を出す装置を、化学物質が多い部屋に追加していることになります。
そして室温が上がれば、こちらの放出量も増えます。 建材からの化学物質と、芳香剤からの化学物質が、同じ空気の中で足し算されていく。
「天然成分」「アロマ」と書いてあるから安全、ではありません
「うちは天然由来のアロマだから大丈夫」
そう思われる方は多いです。
ここに、日本と海外の制度の差が出ます。
フランスでは、2012年1月1日以降、室内で使う建材や内装材は、VOCの放散量を表示しなければ販売できません。
壁材・床材・断熱材・塗料などが対象で、表示なしには市場に出せないと法律で定められています。
A+(放散が非常に少ない)からC(多い)までの四段階で、ISO 16000に基づく二十八日間の試験結果に応じて等級が付けられます。
消費者は、店頭でラベルを見て「これはA+か、Cか」を比べて選ぶことができます。
一方、日本はどうか。
ホルムアルデヒドについては、F☆☆☆☆などの等級表示が建築基準法で定められています。 しかし、それ以外のVOC(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンなどの化学物質)についての放散量表示は、法的な規制ではなく、業界の研究会が自主的に定めた指針にとどまっています。
つまり、表示するかどうかはメーカーの判断次第です。
そして芳香剤や柔軟剤の「香料」に至っては、個々の成分名を書く義務がありません。 何百種類の成分が含まれていても、「香料」の2文字で済みます。
「天然」「アロマ」「オーガニック」という言葉は、成分の安全性を保証するものではありません。 表示に規制がない以上、その言葉は、書きたい人が書けるということです。
住んでいる本人は、気づけません
ここが、この問題のいちばん残酷なところです。
人間の嗅覚には、順応という仕組みがあります。 同じ匂いを嗅ぎ続けると、数分から数十分で、その匂いを感じなくなる。
だから、自分の家の匂いは、自分ではわかりません。
柔軟剤の香りが強すぎる人が、自分では気づいていない。 まわりが「近くに寄りたくない」と思っていても、本人は「いい香り」としか思っていない。
あれと同じことが、家の中で起きています。
訪ねてきた人が「何かの匂いがする」と言ったら、それは相当なことです。 社交辞令ではなく、本当に感じたから口に出したのだと考えたほうがいいと思っています。
松山で、実際に起きていること
抽象論ではありません。
私がこの9年間で実際にお会いした方々です。
学校に行けなくなり、そのまま寝たきりに近い状態になったお子さん。 アトピーが悪化して、日常生活が難しくなった方。 大人になってからも症状が続き、外出が難しくなった方。 太陽の光が当たると体が痛むと訴え、カーテンを閉めたまま暮らしている方。
いずれも松山市内の話です。
そして、一度こうなると、簡単には元に戻りません。
化学物質過敏症の対処の基本は、原因物質から離れること——「暴露量を減らすこと」です。 特効薬があるわけではありません。だから、まず環境を変えるしかない。
家そのものが原因なら、その家を変えないと、状況は変わらない。
暴露量を減らすことで症状が軽くなっていったケースを、私は何度も見てきました。 医学的な治療については、必ず化学物質過敏症の専門の医師にご相談ください。ここでお伝えできるのは、住環境の側でできることだけです。
セミナーの朝、震えながら立っていたお父さん
忘れられない日があります。
冬の寒い朝、当社の勉強会に来られたお父さんが、震えながら立って、こう言われました。
「家は恐ろしい」
目に涙を浮かべておられました。
そのお宅は、木の家で知られた大手の住宅会社で建てられたものでした。 子どものために、いい家を建てたかった。高かったけれど、無理をして買った。
そして、娘さんが体調を崩した。頭が痛いから始まったそうです。
法律の話をすれば、その住宅会社に違法はありません。 換気設備は設置されている。建材の等級も基準を満たしている。 法律で決められたことは、すべて守られています。
だから、争っても勝ち目は薄い。
このお父さんが伝えたかったのは、たぶんこういうことだと思います。
「基準を満たしている」ことと、「うちの子が健康でいられる」ことは、同じではなかった。
法律は、最低ラインを決めているだけです。 そのラインの上でどうするかは、建てる側と、選ぶ側が決めるしかありません。
そして、こんな病気があることを、そもそも誰も知らない
ここまで読んでくださった方の多くは、おそらく初めて知る話だったと思います。
それが問題の核心です。
知らなければ、疑うこともできません。
子どもが学校に行けなくなったとき、多くの親御さんはこう考えます。 いじめだろうか。勉強についていけないのか。友達関係か。反抗期か。
家の空気など疑う人は、まずいません。
だから、原因にたどり着かないまま、何年も過ぎることがあります。
私は、すべての不登校や体調不良が住環境のせいだと言うつもりはまったくありません。 むしろ、ほとんどは別の原因でしょう。
ただ、「そういう可能性もある」ということを知っているかどうかで、確かめられることの範囲が変わります。
今日、お金をかけずに確かめられる五つのこと
これから家を建てる方だけでなく、今の家にお住まいの方に向けて書きます。 どこの会社で建てられた家でも構いません。
1. 給気口を全部開ける
壁の四角い給気口を探して、すべて開いているか確認してください。閉じていたら開けてください。暑い時期は、換気が間に合いませんので窓を全開ではなくとも半開からで構いませんので開けて外出されてください。
2. 排気ファンのスイッチを確認する
洗面所・トイレ・浴室の天井にあるファンが、常時運転になっているか確認してください。「切」になっていたら入れてください。
3. レンジフードの設定を確認する
設計図書か引き渡し書類に、レンジフードが24時間換気の一部として書かれていないか確認してください。書かれていたら、常時「24時間」のランプ表示で回してください。
4. 芳香剤・消臭剤をいったん全部撤去する
二週間、家の中から芳香剤・消臭剤・置き型の香り製品を全部片づけてみてください。無香料だと書いてあっても、化学物質を気化させて臭いを消していますので捨ててください。 化学物質が壁や床などに付着していますので、水拭きをお薦めします。水拭きを繰り返しながら、体調に変化があるかどうかを見てください。
5. 帰宅した瞬間の匂いを、家族以外の人に聞く
自分ではわかりません。訪ねてきた友人や親戚に、正直に言ってもらってください。 そして、山などの綺麗な空気の場所へ行き帰ってきて玄関を開けた瞬間、自分でも一度だけ意識してみてください。順応する前の数秒間だけは、自分の家の匂いがわかります。
特に効果が出やすいのは、1と4です。 どちらも、今日、無料でできます。
最後に
家は、人生でいちばん高い買い物です。 そして、一日のうちで最も長い時間を過ごす場所です。
食べるものには気を配る方が増えました。 でも、その何十倍もの量を、私たちは毎日「吸って」います。
呼吸は止められません。だから家の空気は、選ぶしかない。
もしこの記事を読んで、ご自宅で気になることが出てきたら、上の五つを試してみてください。 それでも心配が残る場合は、専門の医療機関にご相談いただくのが確実です。
コージーベースは、松山市で綺麗な空気の自然素材の家をつくっている工務店です。空気について気になることがあれば、他社で建てられたお住まいのことでも構いません。お気軽にお尋ねください。
家づくり勉強会(体感プログラム):https://www.cozybase.jp/taikan-program
≪記事執筆者≫
コージーベース株式会社
代表取締役 松本 好司(まつもと こうじ)
出身: 松山市生まれ
富士通在職中: 26年間で28回の経営表彰(社長表彰含む)
広島県庁: 特別職 経営企画アドバイザー
公立大学: 経営大学院(MBA)新設に携わる
国の研究機関: プロジェクトマネジメントアドバイザー
建築学科を持つ学校法人: 顧問・専門委員を経験
保育事業: 科学的知見をもとに、健康で安心な保育園設置のアドバイザーを歴任
現在は、これまでのすべての経験を集約し「人生の質を高める住まい」をテーマに活動。
子どもたちの未来と家族の健康を守るため、生まれ故郷である松山・愛媛にて、自然素材を活用した本物の健康住宅の設計・普及に全力を注いでいます。


