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  • 執筆者の写真cozybase

【短編小説】マイホームの夢_私と同じにならないで!

更新日:1月10日

短編小説「マイホームの夢」

~ 私と同じにならないで! ~


短編小説「マイホームの夢」 ~ 私と同じにならないで! ~
短編小説「マイホームの夢」 ~ 私と同じにならないで! ~

【短編小説】マイホームの夢は、動画でもご覧頂けます。




私は飯田沙耶。同い年の夫の隆二と、5才になる娘の陽菜と暮らしている37才の専業主婦です。憧れのマイホームを建てるため、仕事が忙しい夫の分も日夜、情報収集に勤しんでいます。


 先日娘と二人で住宅展示場に見学に行きました。

「すごいねママ。大きい家がたくさんある」

「そうだね。ちょっと高そうだけど」


住宅展示場にはとても立派な家が立ち並び、マイホームの夢がふくらみます。

展示場にある大きな家のお値段を聞くと、さすがに手が届きませんでした。

それでも自分たちが住むとどうなるだろう、そうやって想像を巡らせていました。


「陽菜はどのお家が好き?」

「私、あの壁がピンクのお家がいいな」


 でも、子どもの目はこっそりと値段を中心に見ています。いくつかの住宅メーカーのうち、ベランダから金額の垂れ幕を下げている、ひと際安い住宅がありました。あまりにも安さを売りにしているので誰も近寄りません。ちょっと恥ずかしいですよね。夫がいたら多分見に行かないだろうと思い、娘とその住宅を見学しました。


 私もそれなりに勉強してきたので、入ってすぐに塩化ビニールの壁紙が気になりました。そして床にも一見、自然の木に見える床材がピカピカに光っています。


私はそこにいた営業の方に、聞いてみました。

「このビニールクロスの壁紙を止めることはできませんか」


 すると急に怖い顔をして言い返してきたのです。

「ビニールクロスは今時どこの住宅でも使われてますよ。床だってこちらの方が耐久性もいいですよ。これが今の普通の家ですよ。みなさんこのような家に住んでいます。」


床についても、古くなった実家の床を歩くと沈む箇所があるので続けて聞いてみた。


「強力なボンドで固めた合板材と呼ばれる強い板の上にフローリング材を強力なボンドで止めています。今はどの家もそうやって作られています。当社は施工もしっかりしていますから大丈夫です。」

 そう言ってキッチンにも案内していただきました。黒いレンガ調プリントの壁紙に赤い色の扉のシステムキッチンで、現実離れしたかっこいいデザインにされていました。


「ご覧のように色もたくさん選べるので、おしゃれにこだわりを持って作り上げるお施主様の、お好みのデザインに作り上げることができるんですよ。このビニールクロスの壁紙が気に入らなかったら、住んだ後からでも剥がして新しいデザインに直せますし」


 でも、そうすると家中を覆っている壁紙のボンドから出る新築のニオイがしてくる。

 娘が生まれて新築の賃貸に引っ越してから、時々頭が痛くなることがあったことを思い出した。新築の家に住んで子供のアトピーが酷くなったというママ友の話し。その話しに共感したことが___静かに頭に浮かんだ。


ビニールクロスの壁紙は生活していくうちに黄色くなっていく。なるべくそういう暮らしはしたくありません。それで、自然派とか、自然素材の家で探していたけど、リビング以外はビニールクロスだったり、フローリングの床とか扉など見た目が自然の素材に見せているだけのように感じました。娘は、秘密基地のようなキッチンに、はしゃいでいましたが、私には自分がそこで家族に料理を作る姿が想像できなかったのです。夫に「ここはない」と報告するつもりでした。ところがその日の事件は帰り道での出来事でした。


 新しく開店した100円ショップを見かけて、店内を見て回るだけのつもりで入りました。

 私は店の中に入った瞬間に違和感を抱きました。そのまま店内を進むと気分の悪さを感じ始め、そのうち頭痛とともに呼吸が苦しくなってきました。慌てて娘を抱きあげて外に飛び出したんですが、店の外に出ると娘の顔は真っ赤に腫れあがっていました。


「ママ、くるしい」


 娘はゼーゼーと息を切らしながら私を呼んでいました。

 その時は初めて体験したことで、娘が死んでしまうかもしれないと思い、パニックになってしまいました。幸い二人とも大事には至りませんでしたが、とても怖い思いをしました。


 あれは建てたばかりの建物に付着している、新しい建材に含まれる有毒な化学物質のせいなんだろうと考えましたが、その後も同じような症状が時々でるようになっていました。体力も落ちて年末の大掃除をする気がなくなってしまい、換気扇等の汚れを掃除業者に頼んだ時のことです。掃除専門の作業員は衣装ケースのような箱に薬品を大量に注ぎ、そこに油汚れのひどい換気扇のブレードなどを浸して汚れをとっていました。見たことのない道具や部品、その掃除方法を面白いと思って近くで作業を観察していたのです。すると目の前がくらくらして、頭を抑えてしゃがみ込んでしまったのです。陽菜が幼稚園から帰ってくると、


「ママ、お洋服から変な匂いがする。あたまが痛い。」

と言われ、すぐに着替えさせて洗濯をしました。


友達と一緒にいて、友達の母親が使っている香りの柔軟剤のマイクロカプセルが服に付着したからです。私たち家族は、合成洗剤を使うのをやめ洗剤の代わりに重曹と焼きミョウバンの粉をネットで買って使っています。この方法が洗剤代が安くなり、これから家を買ってから毎月の住宅ローンの支払いが楽になることを発見しました。お金のことよりも娘と私の体が心配だからです。


 こんな暮らしに変えても私と娘は化学物質の臭いに強く反応するようになっていました。今の世の中はたくさんの化学物質の空気に包まれて暮らしています。吸い続けると次第に驚くほど少量の香りでも反応してしまうのです。うちの娘はとりわけ薬品の匂いには敏感に体調崩してしまうようで、義理の母親が入浴剤を多めに入れただけでもお風呂で突然、呼吸が苦しくなる等の症状がありました。


 やがて娘が大きくなって自分の部屋を持ち、部屋でひとりになった時に、娘の異変が起こっても私は気づいてやれないかもしれません。100円ショップの駐車場で嘔吐をした時や、掃除業者の薬品の匂いを私の服から感じ取った我が子が、大人になってからひとりで普通の暮らしができるかどうかはわからない心配が脳裏に浮かびます。

 それにしてもあの匂い、一瞬は良い香りに思えますが、毎日嗅ぐのは誰だってごめんです。体に異変が起こるという事は、その匂いにはきっと毒性があるに違いありません。臭いに慣れてくると、ほとんどの人は臭いを感じなくなる。でも私たちには辛いのです。


体の不調を起こしてしまうような薬品を使った建物や建築物には、なるべく近づかないように暮らせればそれが1番の幸せだと思えています。どんな匂いでもどんな異変でも、臭いで危険を素早く察知してその場から逃げて身を守るしかありません。

 そう考えてから、私は化学物質に無頓着な人たちが集まるお店をなるべく避けるようになりました。自然のままの天然素材をふんだんに利用した建物で、おいしい空気やおいしい水がある場所で過ごすことがどんなに幸せなのか。そんな場所で、おいしい料理やおいしいお酒をいただきたい。なるべく良い環境で人生を過ごした方が良いに決まっているからです。化学物質の臭いが充満した場所に長時間いる暮らしは、怒りっぽく、落ち着きがなくなるように感じました。


 家を買うという意味は暮らしを買う、家族の未来を決めることだと思えています。

ましてや人生をかけた大きな買い物です、自分の憧れのマイホームに、そのような有毒な薬品が使われているとしたら……。

 少なくとも私には、まだ小さい我が子の安全を守る親としての義務があります。それに子供は大人よりも、とても敏感に体の反応が出てきます。


 それから暫くして、私は本格的に体調を崩してしまいました。首の周りがカチカチになって、まるで寝違えたように肩が上がらなくなりました。花粉症でもないのに鼻水や咳が止まらなくなり、目がチカチカして苦しめられました。娘と私がこんな状態になってから、このようになってしまってから家について本当の事実を知りたくて、ネットで調べたり、本を買ったりしました。一旦化学物質の過敏反応が始まると根本的に治す薬はなく、様々な症状が出てきます。少なくとも私の場合はそうでした。


 化学物質の過敏症状は特別な体質の人がかかる訳ではないようです。化学物質の蓄積量が飽和状態になったとき、過敏に反応するのが化学物質過敏症だと分かりました。その蓄積量は人によって異なります。花粉症やPM2.5のアレルギー反応と同じようなもので、一度発症すると年々に過敏に反応するようになっていくそうです。花粉症やアレルギーといったものも、化学物質過敏反応の一種だと言われています。子供のアレルギーやアトピといった症状は、親への警告のように思えてきました。


 人は1日に飲食物を平均2キロほどしか取りませんが、500mlのペットボトル約3万本分の空気を常に体の中に取り込んでいると、ある家電メーカーのホームページに書いてありました。私たちは常に呼吸しています。呼吸を通して化学物質に汚染された空気は肺から直接血液に溶け込んで、体中をめぐって中枢神経を狂わせてしまいます。だから全身に健康を害する様々な症状が出るそうです。厚生労働省のホームページには住宅に含まれる化学物質について専門会議が開かれている議事録も公開されています。日本だけがガイドラインとなっていて規制をしていない事実も知りました。


私たち家族にとっては家は一生に一度きりの買い物です。住宅選びをいい加減にするわけにはいきません。『薄い毒ガスの家』に住むことになるからです。


 興味をもって調べていくと、発泡ウレタンの断熱材に含まれる化学物質が海外では使用禁止になっていることもネットで知ることができたのです。新築やリフォームなどの建物建材に含まれている化学物質が原因で様々な健康被害で苦しんでいる方も知りました。


 健康被害は人による症状の出方がまちまちで、はっきりした証拠がないため、誰かを責めることができないこともあります。そして最も厄介なのは、化学物質による身体の異常は、病院の精密検査でも化学物質が原因だとわからないことがあるのです。そのため病院に行っても、心身症だとか更年期障害のような不定愁訴と診断されるかもしれません。症状だけで追いかけて見当違いの薬や治療を施されれば、より症状が悪化する可能性すらあります。


ママ友の話しによると、うえのお子様が小学校に行ったとき発達障害と呼ばれる子供が増えて授業をうける教室には先生が2名体制になっていると言っていました。私たちの子供の頃の小学校とは違っているようです。脳神経に影響のある化学物質を新築住宅で使っていると書いてある厚生労働省のホームページに書いてある内容と現実が一致しているように思っています。


 気持ちを取り戻すため、私たち家族は温泉旅行をしました。夫がネットで見つけてきた古びた旅館は、私が子どものころ、山里のおばあちゃんが住んでいたような昔ながらの家です。この旅館は、新築の家の見学会に行った時に嗅いだ匂いはしませんでした。木材の良い香り、畳表のい草の香ばしい香り、自然の匂いに満ち溢れていたものでした。何より、過敏症の症状は全く出ませんでした。


 この旅館は古いけど、自然素材を自然素材のままの状態で使っていました。室内に有害物質が発生することなどほとんどなかったのです。現代の人が昔の日本人に学ぶ点は、自然の素材をそのまま使うこと。もとの日本の姿に戻ることが新しく感じました。


 ふと見ると、夫の隆二は家から持ってきた半纏を着込んでいました。

「そんな古ぼけた安物着るのやめてよ、恥ずかしいから」

「だってさぁ、ここなんか、寒いんだもん」

 確かにこの旅館は自然素材でできてはいるけれど、あまりに古いため所々隙間風が入ってきます。強い風が吹くと窓がガタガタと揺れました。私には、昔おばあさんの家に遊びに行った時を懐かしく思い出しました。昔は体に問題がない家だったのに、今の家はどうしてこうなってしまったのでしょう。

 私は温泉旅館の杉のお風呂にひたり、ゆっくりしながらつくづく思いました。大切なことは、素直に五感で感じれば、きっと誰にでもわかることです。そして、健康不安がない家の空気は工業製品としては作り出せません。工業製品によって汚された水や空気は、汚された後では、もう戻らないのです。 家族風呂の内湯で娘に聞きました。

「陽菜はどんな家が好き?」

「私はママと一緒がいい」

「目が痛くならないところがいいよ。この旅館みたいなお家でいい?」

「うん、喉も痛くならない。声がガラガラしないよ」


お風呂からあがると夫の隆二はズボン下を履いていました。化学物質に敏感でない隆二だけは、寒さのほうが耐えられないようでした。


 娘と私が化学物質に過敏に反応する症状があることが分かってから、私たち家族は山里と呼ばれるような場所に引っ越しました。夫の通勤は遠くなったけど、きれいな空気なので、マスクなしで毎日近くを散歩することができます。野菜は医師の薦めで無農薬か減農薬にして、食材や調味料など自然派の宅配で注文しています。こんな生活を始めてから、ようやく娘と私は化学物質過敏症の症状が発症しなくなったのです。


私が今住んでいる家はシックハウスはありませんが古い家なので冬は寒いです。 暖かくて、健康な家に住みたい。それが理想のマイホームだと分かりました。

新しい発見をし、それから再び、私たちの家探しは再開されました。

 自然素材の気に入った家をネットで見つけ、「ここならいいかな」と思った時には、夫に先に行ってもらい、その家の玄関扉を開けた瞬間の臭いを確認してもらっています。


家族が安心して健康に暮らせる家って、なかなか見つかりませんね。

それでも粘り強く、がんばって、娘が安心して暮らせる家を探し続けます。 だって、家よりも娘や家族が一番の宝物ですから。



 

≪記事執筆者≫

コージーベース株式会社

代表取締役 松本好司

愛媛県松山市生まれ。富士通に在職中は社長表彰をはじめ26年間で28回の経営表彰を授与。その後、広島県庁の特別職として経営企画アドバイザー、国の研究機関のプロジェクトマネジメントアドバイザー、公立大学の経営大学院(MBA)の新設などの公的職務を歴任。建築学科がある学校法人の顧問、専門委員などに就任し、科学的知見をもって健康で安心な保育園の設置アドバイザー、健康自然素材の健康住宅の事業を行っています。


愛媛県で新築注文住宅をご検討の方、漆喰と無垢の木の家についてお知りになりたい方は、いつでもお気軽にお電話ください。資料請求もホームページから承っております。


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